コミュニケーションが感性を育てる
近年の事情
2015年、今年もよろしくお願いいたします。
昨年の「子育ての会」では、最近の子育て事情だけではなく、子どもにとって良い環境のことや、発達障害のこと、教育界の諸問題などと共に、個別の問題も話し合ってきました。なかなか難しい事の多い、内容の濃い会になりました。
25年前に始めた「子育ての会」(大阪)の時に、「現代は子育ての難しい時代になりました」という話をしていたのですが、子育てが難しくない時代はなかなか来ないみたいです。それどころか、25年前には自閉症の相談は受けましたが、「発達障害」という言葉はありませんでした。専門家の間では言われていたのかも知れませんが、一般には言われていなかったのです。そういう時に「学習障害」という言葉が登場し、「注意欠陥多動性障害(AD・HD)」「アスペルガー症候群」という言葉が次々出てきたと思うと、私のところにもそういう相談がどんどん飛び込んできました。
そこで東京に転勤になって、ここに来てすでに12年近くになったわけですが、「発達障害」のことはどんどん相談が増えました。また、「自閉症」という言葉は薄れて、「広汎性発達障害」という言葉で多くの子ども達の障害がくくられるようになりました。AD・HDやアスペルガーについても最初に言われていた内容だけでなく、かなり幅広く症状があるように言われるようになりました。そのために親御さんはますますわからなくなり、我が子が「発達障害ではないか?」と悩んだり、どのように対処して良いのか悩まれることが増えたように思います。
そういうところに、小学校での英語教育のことや、教育格差の問題など、新たな問題も増えて、親も教師も混乱したりして大変な時代になっています。子ども自身に目を向けるよりも「障害」や「勉強」「進路」といったことがことが気になってややもすると子ども抜きの子育て、教育がなされているような気がします。
子どもの心
とは言え、子ども達は子どもの心を失っていないと思います。やはり、私たちはその子どもの心をしっかりと育ててあげたいものです。
ある本に掲載された「幼児のつぶやき」をいくつかご紹介したいと思います。
おとうさん 遊んでくれて ありがとう たすかるわ (4歳女子)
お尻って やくにたたないね ぶたれるだけで (5歳男子)
おとうちゃん またきたん? よくくるねえ (2歳男子)
きょう ようちえんに サンタクロースのおじいさんがきました けれども おひげを ゴムでとめていました どうか らいねんまでには はえるようにしてあげてください アーメン (5歳女子)
おかあさん ぼくのはな あながあいてなければよかったよ はながでないから (3歳男子)
こういう子ども達の言葉を聞くとホッとしますね。
感性を育てる
子どもの感性には驚くことがたくさんあります。このつぶやきを読んで笑ってしまうのですが、私はこんな良い感性があるのは良い親子の関係、コミュニケーションがあるからではないかと思うのです。
子どもとお母さんとの触れ合いは比較的多いと思いますが、お父さんとの触れ合い・コミュニケーションは少なくなりがちです。でも、大事な事は言うまでもありません。
子どもたちはお父さんと一緒に過ごしたい、遊んで欲しい、叱ってもいいけどそれ以上に楽しく過ごして欲しいと思っているのです。お父さんは時としてダイナミックな体験をさせてくれて、ドキドキ、ワクワク感を持たせてくれます。そうした感覚が良い感性を生み出すのです。
また『父親の背中』という言い方でなされるように、仕事に対する情熱、家族を守ろうとして真剣に生きる姿、家族を喜ばせようとして一生懸命に何かをつくったり、ギャグを言ったり、楽しい企画を立ててくれたり、子どもたちはお父さんとのコミュニケーションを楽しみにしています。そして、その背中をしっかり見ています。
私と生徒達
中学の教師時代に、私は教室に弁当を持っていって、生徒と一緒に食べました。「何しに来たん?」と言われるのですが、毎回グループを替えて、一緒に食べました。おかずを取られたことももらったことも、楽しい思い出になりました。生徒達は先生と一緒に過ごす事も喜んでいるのです。
いつからか毎朝生徒達とグランドをジョギングするようになりました。どんどん生徒が増え、一緒に走る先生も増えました。すると、校内駅伝大会に先生チームを作ろうということにもなりました。ある時は球技大会で優勝チームは先生チームと対戦することにもなりました。楽しかったですね。
生徒達は先生とのこういうコミュニケーションを求めています。授業だけで無く、こうした日常の中で触れ合うことで、話し合うことで、その感性は成長し、磨きがかかり、さらに生徒達は生徒同士を大切にすることも覚えていくのです。
親だけでなく、また子ども同士の遊びだけでなく、色々な大人が良い関わり・コミュニケーションをとってくだされば、子ども達の感性は良くなると思います。
母親の力
しかし、何と言っても母親にはかないません。何も母親に責任を押し付けようとかそういうつもりはありません。
「非行から子どもたちを救うために 八王子医療刑務所の体験をもとに」(中村弘二著 長崎出版)を読んで、改めて幼児期に親子のコミュニケーションの必要性を覚えました。その中から、少し引用します。
刑務所に収容される人は、90%以上が小・中学校在学中に弱い者いじめや盗みの敬虔があります。これは看過できません。『いじめ』は犯罪です。いじめる人は将来、犯罪者になる可能性が高くなるので、その温床をこれ以上増やすわけにはいきません。『子どもは』大人社会を映す鏡である』とも言われます。大人のモラルの低下が諸問題の遠因になっています。
「非行から子どもたちを救うために 八王子医療刑務所の体験をもとに」(中村弘二著 長崎出版)
出産は女性にとって大きな仕事であり、生まれた子は母の愛情を追い求めます。それゆえ、その影響は一生、強く重いのです。少年院に収容される少年の家庭をつぶさに観察しますと、幼少期において父親もさることながら、母親の愛情不足あるいは溺愛、冷淡、甘やかし、虐待、放任などは将来の人間形成上、問題をはらみ易いのです。それらは子どもの性格をゆがめ、自立心を奪い、わがままでエゴの強い、いびつな人間に育つ可能性があるからです。だから母親は賢明であらねばならないのです。
「非行から子どもたちを救うために 八王子医療刑務所の体験をもとに」(中村弘二著 長崎出版)
障害を抱えた子どもの親から、こんな話を伺いました。五歳の子どもです。ある時、母親にこんな質問をしました。『ボク、生まれてきてよかったの?』いたいけな質問に母親は、涙を浮かべて子どもをギュッと抱きしめ、こう答えました。『何言ってるの、あなたはわが家の宝物よ』・・・後に青年は『母のあの励ましの言葉があったから、今の自分があります』と多くの青年の前で、目を輝かせて体験を話しています。・・・賢明な母親が多いことは、地域、社会、日本、世界を変え、世界平和に結びついていきます。その意味で女性の力は偉大な力を持っていますし、使命は大きいといえます。
「非行から子どもたちを救うために 八王子医療刑務所の体験をもとに」(中村弘二著 長崎出版)
実際に犯罪を犯した少年と接し、追跡調査をされた結果だけに重さを感じます。男女平等は当然ですが、子どもを見失わないようにしたいものです。
子どもと直に触れ合うこと
「子どもを大事に!」と叫ぶ割に、教育方針や勉強、栄養、健康ばかりが優先され、愛情豊かな触れ合いは忘れられていないでしょうか? 「コミュニケーションが大事です」と言われて、マニュアルを実行するように、子どもと遊んだり、読み聞かせをしたりする親御さんがいます。悪くはないです。でも、方法論より、触れ合いを楽しんで欲しいと思います。子どもは楽しんで触れ合ってくれる大人を見抜きます。
抱きしめや、愛情のこもった一言、母親には母親の暖かさと優しさ、父親には母親に無い感性で、そ他の大人の人からもまた違った感性で。
そして、子どもだけでなく、私たち大人もみんな、神様の大きな守りの腕の中に包まれて、その暖かさを感じ、厳しさもあるけれど愛情豊かな言葉を受けて、感性が磨かれることで、より良い感性が子ども達にも伝わるものです。