つまずきに早く気づく

子育て通信

3等分が難しい!?

 「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著 新潮新書)という本を読みました。医療少年院に勤務し、少年たちに勉強を教えてこられた経験の中で、事件を起こした少年たちが共通して持っている問題を発見した著者は、著者なりにその問題解決を考えられました。同時にこの本を読みながら、これは事件を起こした少年たちだけの問題ではなく、全ての子ども達に対しても必要だと思いました。

 まず、この本の題である「ケーキの切れない」ということがどういうことなのか気になりました。宮口さんは少年院の少年に次のような質問をしました。
 A4サイズの紙に円を描いて、「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか? 皆が平等になるように切ってください」という問題です。少年は「う~ん」と悩んで固まったのだそうです。そして、描いたのが左下のような線だったのです。
 これを見たとき正直ショックでした。どうしてベンツのマークのように三等分できないのか、宮口さんと同じく考え込んでしまいました。こういうような実体験が無かったのか? あるいは何らかの障害があるのか? 等々考えてみました。それだけに本当のところはどうなのかが知りたくなりました。

基礎に返って

 そこで宮口さんは少年たちを指導していてわかったことが、簡単な計算のできない子、漢字が読めない子がたくさんいたことでした。だからといってそれは特に障害があるからということでは無いのだそうです。そういう学力を身に着けられなかったのです。もちろん、その理由は色々考えられます。
 少年たちに事件を起こしたことを尋ねても「後先のことを考えていなかった」という答えが返ってきたのだそうです。要するに考える力、見通しを立てる力等々の力が欠けてしまっているわけです。

 その力が身についていない理由の一つに小学校の時から彼らは見落とされていたことが上げられます。先生方も彼らは「わかっている」と思っていたり、十分できなくてもその子達に時間をかけてあげることができなかったりして、どんどん勉強が進んでしまい、どうにもならなくなってしまったようです。

 宮口さんはそういう少年たちに少年院で勉強を教えました。基礎の基礎からやり直すことでかなり取り戻すことができたそうです。

達成感を得る方法

 この方法は私も家庭教師時代や教師時代、あるいは牧師になってからも使った方法でした。高校に入れそうに無いという生徒を預かり、勉強を教えたことが何度かありましたが、その時にやった方法は、彼らがどこでつまずいたかを調べることでした。分数でつまずいた子、割り算でつまずいた子、九九でつまずいた子、二桁の引き算でつまずいた子。数学(算数)の場合はこのようにしてさかのぼって調べ、そのつまずいたところからスタートしていくとどんどんできるようになるのです。これをもっと早い段階でしていれば良かったのにとどれほど思ったでしょうか。
 漢字が書けない子にはとりあえず読めるようにしました。漢字が読めないと本をすらすらと読むことができません。まずは本をすらすら読めるようにすることです。
 ここで大事なことはどこでつまずいたかを見つけ、その所に戻るのですが、さらにもう少し前まで戻るのです。4年生でつまずいているなら3年生に戻って、3年生の短時間でできるドリルをさせるのです。すると制限時間よりかなり早くできます。その「できる」という感覚を味わうことがとても大切なのです。
 彼らには「できる」という喜び、「できた」という達成感が無いのです。この気持ちを味わわせてもっと学びたいという気持ちを持たせることが大事です。
 宮口さんもこのように教えていくと、少年たちが2時間という時間をあっという間に過ごし、「もっとやりたい」と言い出したというのです。今までこういう気持ちを持つことができなかったことが残念です。

私がやった方法

 この方法を私も使ったと言いましたが、私は記憶力が悪く、いつも覚える勉強では苦労しました。しかし、自分が記憶力が悪いことに気づくのは中学生になってです。小学生の時は、自分のそういう状態が理解できていませんでした。もし、小学生の時にこの自分の状態がわかってそれなりの方法で勉強していたらもっと変わっていたと思うのです。

 中学生になって一度聞いたら覚えてしまうという友だちができたことで自分の記憶力の無さに気がついたのです。彼は特に試験勉強なんかしないというのです。というのも一度聞いたら滅多に忘れないからです。私は試験勉強をかなりしても大した点が取れなかったのです。まあ、彼のような人の方が大変珍しいのでしょうが、友だちの力というのは大きいものです。
 彼を含む友だち数名とで一緒に勉強させてもらったことが何度かありました。彼の理解力に圧倒されて発奮するのですが、どうやっても彼のように覚えられないわけです。彼は「どうして覚えられないの?」なんて言うものですから、ちょっと頭にきたりもしていました。

 こんな中で、考えついたのが、彼が授業を受けるとその時点で理解しているのだから、私もそうなるようにしたいと思ったのです。しかし、私にはそれは無理でした。質問できればいいのですが、何をどう質問してよいのかさえわからないのですから質問もできません。

 そこで、予習に力を入れました。予習ですからわからないことが出てきます。そこでそのわからないことを質問する準備をしておくようにしました。しかし、授業を聞いていると質問するまでもなくわかることがほとんどです。するとこの時点では彼と同じようにわかったわけです。
しかし、彼との違いは、彼はそこから忘れないけれど、私は忘れてしまうということです。今度は忘れないためにどうすればいいのかを考えに考えました。そこでやったのが、ドリルのような問題集を、そこに答えを書き込まないで100点とるまで何度もやるという方法でした。最初は自分に腹が立つくらいできなくて、イヤになりました。が、何度も同じ問題をやる内に100点が取れるようになりました。いわゆる再テスト、再々テスト・・・で100点を取ったわけです。でもこの方法は効果がありました。
 高校受験の前にもこの方法でやり続けたので、なんとか合格。実は大学受験もこの方法でした。

つまずきは早く発見を

 今回の「ケーキの切れない非行少年たち」を読んで、自分自身の方法を思い出したわけですが、子どものつまずきを早く見つけることができると解決も早いということです。勉強のつまずきが彼らの人生のつまずきを与えたとすれば、親や学校の責任は重いなあと思いました。
 しかし、ことは勉強だけではありません。普段の生活の中での様々な体験が大事なのです。このことは今までこの「子育て通信」で相当書いてきたと思います。

 この聖書の言葉を思い出しました。

  あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。わざわいの日が来ないうちに、また「何の喜びもない」と言う年月が近づく前に。

伝道者の書 12:1

子育て通信

Posted by shinnakano